香りのノート(香り立ち)

香水は、つけてから香りがなくなるまで、同じ香りが持続すると思っていませんか?匂いはグラデーションを描くように変化していき、そして消えていきます。香水のこの特性を理解しているとつけるタイミングや香水のつけ方がスマートになります。

このセクションでは、香水の香り立ちが変化するという事実と、香り立ちはなぜ変化するか、その香り立ちのメカニズムについてウンチクしていきたいと思います。香りの分子の面白現象をお楽しみ下さい。



なぜ香り立ちは変化する?

香り立ちの変化は、化学の分子的な視点で説明できます。香水は様々な香料から構成され、全体としてひとつの香りにまとめられていますが、調合の結果完全に単一成分に化学変化したわけでも、単一分子になったわけでもないのです。

香水が香るという現象は、香水の成分が小さな分子となって空気中に浮遊している状態です。香りやすいかどうかとは、物質(香料)が揮発しやすいかどうか、沸点が低いか高いかという問題と深く関わっています。

香水を肌につけてから、香りのエッセンスが揮発して香る過程で揮発がしやすい成分から順々に飛び出していきます(化学的には分子量の小さな成分が「飛びやすい」とされます)。

その結果、時間とともに香水は香りのグラデーションを描きながら、どんどん変化していきます。

香りの変化、3段階(Fragrance notes)

香水は、最初にプッシュと吹きかけたときから常に香りを変化させています。それは化学的にもっともなことです。様々な成分(香料)構成される香水は、揮発する成分の順番に違いがあることのその一番の原因です。

香水業界では、香水の香り立ちの変化具合を下記の3種類に分類しています。もちろん、デジタルのように明確な違いがあるわけでなく、きわめてアナログ敵にかつグラデーション的な香り立ちの変化を描きます。

そのため香水の香り立ちの自然な変化をわずか3種類に分類することにはムリがありますが、私たち人には香り立ちの変化という現象の理解をしやすくする手助けになっています。
  • トップノート : 〜10分程度。香水の第一印象
  • ミドルノート : 〜3時間程度。香水のボディ
  • ベースノート : 〜12時間程度。香水の余韻。残り香


トップノート(Top notes)

香水の一番最初に華やかに香る香りのがトップノートです。沸点が低い物質(低沸点物質)を中心とした香りです。激しく揮発するので華やかで印象深い香りですが、これは打ち上げ花火と同じで持ちません。すぐに衰えます。

柑橘系の香りには多いタイプです。それはシトラスの精油を特徴づけるリモネン、リナロール、酢酸リナリルなどの分子量が比較的小さいためです。

なお、トップノートでは、香水の基材となっているエタノールもトップノート初期に飛び出します。エタノール(エチルアルコール、C2H6O)は非常に単純な分子で、アルコールの中では、メタノール(メチルアルコール、CH4O)に次いで軽い分子です。

沸点は78.4度(メタノールは64.7度)。まずはこの軽いエタノールが飛びます。純度の高いエタノールはそんなに強烈ではないのですが、多くの人が「ツンとくるニオイ」と表現し嫌われる傾向にあります。

しかし、ムエット(匂い紙)なら2、3回振るだけでアルコール成分はある程度飛びますので、香水をムエットに吹きかけたら、いきなりムエットを鼻に持ってくるのではなく、ムエットを少し左右に振ってから鼻に近づけるとよいでしょう。

※実際に香水を使用する人にとっては長時間香るミドルノートが重要ですが、香水にとってトップノートは「マーケティング的に」あるいは「ビジネス的に」非常に重要です。多くの人が香水のトップノートで第一印象を植え付けられ、その製品が好きか嫌いかの判断のほとんどがトップノートでなされてしまうからです。ミドルノートがよい製品でもここでNGの評価を受けてしまえば、次に進めないというジレンマがあります。パフューマーが苦心する部分です。

ミドルノート(Middle notes)

5〜10分後くらいにはしっかりした落ち着いた香りが訪れます。多くの香水の場合、香りの一番のボディに当たる部分がここです。これがミドルノートです。トップとベースにはさまれたその香水製品の特徴というべき部分です。

ミドルノートの持続時間については香水製品ごとに幅が大きすぎて「何時間」とは書きにくいのですが、数時間から半日程度を目安に考えていただければよいかと思います。

それに加え、トップノートからミドルノートへの比較的分かり易い変化と比較すると、ミドルノートからベースノートへの移行は、いつからベースが始まったのか、わからないくらい穏やかで微妙であるため、その点でもミドルノートの持続時間は定義しにくいものがあります。

ベースノート(Base notes)

ミドルノートも時間とともに穏やかに衰え、最後は余韻を残すかのような香りが訪れます。重たい香りです。沸点が高い物質(高沸点物質)の香料を中心とした香りです。これはベースノートと呼ばれます。いわば残り香(のこりが)のような存在です。

しかし、日本語の残り香の微妙な、感傷的なニュアンスを感じさせるイメージよりは、香水を調香する際の戦略的設計に基づいて創られるアクティブな部分です。ベースの設計(調香)は製品全体の重量感と持続時間に影響を及ぼします。

ベースノートは、比較的「乾いた印象」を受ける香りが多いようです。

なお、ベースノートは「ラストノート」、「ボトムノート」、「ディープノート」、「ラスティングノート」と呼ばれることがあります。当社では「ベース」や「ボトム」という言葉をよく使用します。

香料の種類によってはベースノート向きかどうか決まりますが、一般にムスク、アンバーグリスなどの動物性香料、サンダルウッド(白壇)などのウッディ系香料は持続力が強く、場合によって24時間以上香り続けます。逆に残り安い香料は上記以外それほど多くの種類がありませんので、残り香は案外どれも似た香りになる傾向があります。

香水売り場で数種類の香りを試し、ムエットに付けて持ち帰ると案外どれがどれだかわからなくなる経験をされる人は少なくありませんが、これもベースノートとして最後に残る香料の種類が比較的似ているためです。

以上、一般的に下記のように3段階で香水の香り立ちの変化を表現します。
  • トップノート : 〜10分程度。香水の第一印象
  • ミドルノート : 〜3時間程度。香水のボディ
  • ベースノート : 〜12時間程度。香水の余韻。残り香
しかし、これは便宜的に分類された香り立ちの変化で、突然違う香りに切り替わるわけではありません。実際はゆっくり穏やかに「グラデーション」的な変化していきます。
 

 
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