廃盤(生産製造中止)になった香水の復刻
当社への非常に多いご問い合わせのひとつに廃盤になった香水の復刻をお願いしますというものがあります。当社サイトのあちこちに「(注意)他社製フレグランス・香水類のコピー、イミテーション、復刻は行っておりません」と注意書きをこれでもかという感じで入れています。

それでも「なくなりかけたおみやげの香水を制作してください」とか「20年前に愛用していた○○堂のローションの香りを再現して」、「少量残っているのでこれを送れば再現してくれますか?」、「同じような香りを作ってくれるところを検索で探してきました。あと少し香水が残っていますので、それをもとに同じ香りの香水を作っていただけますか?」などなど・・・お気持ちはわかりますが、お受けしておりません。

残念ながら、他社製フレグランス類のイミテイトやコピー、復刻などは一律にお断りしております。いろいろな問題があります。実情はこうです。復刻するためには様々な困難を乗り越えていかなければいけません。

●成分分析ができない
香料成分は分析機(ガスクロマトグラフィ、通称ガスクロまたは、ガスクロマトグラフ質量分析計/Gas Chromatograph Mass Spectrometer、通称ガスマス)にかけても100%成分を分析できることはかなり希です。仮に成分の97%を検出できても香りとしては不完全なことが多い。成分によっては0.01%でも香りは変化しますので。だいたい普通の香水メーカーにはガスマスはありません。大手香料会社か医薬品などの研究所でないと・・・

●香料・原材料が入手できない
仮に成分のアタリが付いたとしてその成分が入手可能かというと、これが問題。実は、毎年業界の自主規制などで使用できない物質が増えています(反面新しい成分が作り出されています)。ブランド香水もそうですが、使用できなくなった成分を他の成分と換えるためブランド香水も長い年月の間には成分が微妙に変化しています。そもそも天然香料なら産地や年度で香りが違いますので、どうかするとロットごとに違う香りになります。

ある世界的な大手化粧品会社さんの話です。80年代にリリースされ、すぐに廃盤になったある名香はファンが根強いため2000年くらいに再リリースのプロジェクトが持ち上がりましたが結果的に頓挫しました。最大の原因は別にありますが、プロジェクトがなかなか進まなかった理由として規制上使用できなくなっていた香料の代替品でのアコード取りに苦悩されたという話です。よくわかります。普通はこうなります。

●予算オーバー、コスト・資金的な問題
ガスマス成分評価だけで、おそらく一般のお客様のイメージされている価格を軽く超えてしまっています。一般に専門の成分分析機関に特定成分の成分試験を依頼すれば数十万円、全成分分析となると(いくらカネを出してもできない場合も多い)・・・個人では事実上不可能な金額です。仮に成分が100%分析されて、仮にその成分が入手可能として(実際は入手できないものが多い)、その原材料の仕入れコストがご予算に合うかどうか、悩むまでもなく予算オーバーとなります。

●著作権や工業権の問題
著作権が認められる香り。コピーするとお縄になります。近年、香水の処方には知的所有権、工業権、著作権などが認められるようになりました。近年まで人気ブランド香水のコピー商品が堂々と販売されている観光地などありましたが、今後は世界的に減少していくと思われます。EUはこのへんに敏感で今後規制を強めてくると思います。

●お客様は満足度や期待値の問題
ここまで苦労してたどりついた製品を制作したとして、お客さまが満足してくれるかどうかはまた別問題です。「ちょっと違うわね?」という感想をいただくことは容易に予想されます。それは思い入れが強すぎてイメージが膨らみすぎているためです。特に現物が既に手元になく実際の香りと比較できない場合、起こりうる状況です。その日の気分や天候、事前情報など心理的な状況の違いでも香りはかなり違って感じられます。

香りの感じられ方は、非常にナイーブで気持ち一つでよくも悪くも感じられるのは心理実験で確認できると確信しています。たとえば、有名ブランドの香水とそれと同じ香水ながら「無名ブランド」と言って被験者に香りを嗅がせるとどんな結果になるか、私にはわかっています。いつの日かきちんとした実験でデータを取りたいと考えていますが、平均的な私たちの香りの評価はこのようにその時の心境一つでかなり揺れることは経験上歴然とした事実です。

●自社製品でさえ復刻しないメーカー
以上の事情のために、なんとメーカーは自社製品さえ復刻やコピーをやりたがりません。膨大な開発費用を投入してそれだけの予算を組だけの価値がある香水やトイレタリー製品は多くないはずです。

世界には数々の名香が香水史に刻まれましたが、名香でありながら廃盤になったものも少なくありません。人気がなくなったわけではなく、ニトロムスクなど現在の安全基準からすれば使用できなくなった香料や入手できなくなった原料の代替品の開発に膨大な時間的コスト的人員的な投資が必要だからです。それだけのお金を投じて、なお勝算があるかどうか、という問題です。


●イミテーションと本物
イミテーション(贋物、にせもの、似せた物)には、2種類あります。堂々とブランド香水のコピーやイミテーションと謳いながら、品質にやや問題がある物。これらの商品は現在でも世界中で後を絶ちません。似ているかどうか程度の問題や著作権の問題を別にすればイミテイトすることは比較的簡単にできます。

海外旅行すれば、シャネルやブルガリ 、ディオール、エルメス、ゲランなどのそうそうたる香水が破格な値段で露天に並んでいる光景を見たことはありませんか?しかし、このイミテーションでハッピーなる客層と、復刻を望む客層はまったく別の客層です。復刻を望むお客様がイミテーションで満足されることは少ないのではないでしょうか。

また、コピーやイミテーションなのに本物に限りなく近いクオリティの商品。なぜ本物に限りなく近い商品が出回るのか、なぜそれが可能なのか、それは香水産業の構造的な問題です。また別の機会に取り上げたいと思います。
  • (2005-11-13)
<< 商品企画はいろいろ思いつくけど...< | >まじめに、ポエム 『ファイブ・ストリーズ』 >>

[▲page top]