世界初のフェロモンの発見・・・ボンビコール

世界初のフェロモンは、1959年ドイツの科学者デテナントさんが20年以上かけて発見し発表したカイコ「ボンビコール(bombykol)」でした。この時代には、まだフェロモンという言葉も研究分野も確立していませんでしたが、ボンビコールを契機にフェロモン研究が進みます。

ボンビコールはごく微量で数キロ先の異性をひきつるとされており「微量で高い効果」が特徴のホルモンやフェロモンの性質をよく現わしています。逆に言うと微量で高い生体反応を引き起こすため環境に与える影響も大きい。それらは「環境ホルモン」と呼ばれます。

フェロモンとは・・・ホルモン同様「コマンド系」

フェロモン(pheromone)とは、動物個体から放出され同種他個体に特異的な反応を引き起こす物質。 フェロモンと似た物質にホルモンがあります。ホルモン(hormone)とは、個体体内で分泌され生理的な反応を引き起こす物質。

最近の研究で、フェロモンとホルモンは物質的にも似た構造を思われています。しかし、自分自身に働きかけるホルモンに対して、自分ではない個体に働きかける点がフェロモンとホルモンの大きな違いになっています。

また、主に血中に分泌されて各細胞に制御信号を伝えるホルモンにたいしてフェロモンは鼻のある器官(嗅覚細胞とは別)で認知され脳には電気信号が送られるその制御信号で神経系やホルモン分泌系を刺激すると考えられています。この部分も最初から最後まで化学物質伝達系であるホルモンとの違いと思われます。

また、ごく微量で作用する点は、私の造語ですがどちらも「コマンド系」物質と思われます。カラダではアミノ酸やブドウ糖は、実際にカラダの組織の一部になったり、エネルギーとして燃焼(酸化反応によるエネルギー生成)させる具体的な材料ですが、「コマンド系」は、たとえば成長ホルモンのように成長(細胞分裂)そのものは細胞の力で行いますが、それを「成長せよ」「成長をやめよ」といったコントロールは、ホルモンによってなされます。

ジャコウジカの性フェロモンであるムスクはヒトにも多少の興奮をあたえるので完全にないとは言い切れませんが、フェロモンは一般に「同種他個体」に作用するため種が違えばあまり意味がありません。現在知られている昆虫の各種のホルモンはヒトに作用しないだけでなく、同じ昆虫でも違う種類の昆虫には作用しません。

また、フェロモンがテーマにされた場合、性フェロモンが特に強調されがちですが、フェロモンは性フェロモンによる性行動や生理作用を含め様々な効果が知られています。

昆虫のフェロモン

フェロモン研究は昆虫から始まりました。

ファーブルの昆虫記ではガの生態について、雄のガが雌のガに引きつけられる話があります。雄を引き寄せる謎の物質について研究された結果、発見された性誘因物質(化学物質)がフェロモンと命名され次のように定義されました(この定義は昆虫フェロモンに対してのもので、ヒトに当てはまるかどうか研究者の間で異論があります)。

「動物個体から放出され、同種他個体に特異的な反応を引き起こす化学物質」

  • 性ホルモン
  • 道しるべフェロモン(道標フェロモン):アリは足跡に道標フェロモンを残すことで行列をつくる習性を持ちます。
  • 認識フェロモン:アリが自分の仲間かどうかの判別に利用されます
  • 集合フェロモン
  • 警報フェロモン


哺乳類のフェロモン

哺乳類では、ネズミ、鹿、豚などに性フェロモンが存在し、機能していることが知られています。

たとえば、豚にはアンドロステノールという性フェロモンが存在しますが、世界3大珍味のトリュフは雌豚を利用して探します。トリュフにはアンドロステノールが含まれており、他の動物では見つけられないトリュフを雌豚は嗅ぎ分けることができるためです。

このような動物の研究から性フェロモン物質の存在とその働くメカニズムが少しずつ判明してきています。フェロモンは、香りや匂いと同じく鼻の中の嗅覚神経で受容され、その情報が大脳皮質に伝達されるわけでなく別の器官にて受容されています。

哺乳類のフェロモンは同じ鼻の中にありますが嗅覚神経とは別の鋤鼻(じょび)と呼ばれる器官で受容され視床下部に伝達されます。視床下部とは内分泌機能コントロールしています。ホルモン分泌制御室といったところです。しかも、性行動や感情などの本能の中枢となっています。

ところが、ヒトに関して言えば、ヒトの鋤鼻器官は進化の過程で退化しているか、もしくは機能していも機能低下が著しく、しかも個人差が激しい器官であることがわかっています。また鋤鼻器官自体が機能していたとしても、それを直接脳の視床下部に伝える神経系が存在しないとする説が有力であり、ヒトの性フェロモンに関して言えば、他の哺乳類と違って下記の3点において疑問視する意見が多く聞かれます:

  • フェロモン物質が現状特定されていない。ヒトにとってのフェロモン物質が存在しない可能性がある
  • 鋤鼻(じょび)器官が退化しているためフェロモン物質が存在してもそれを受容できない可能性がある
  • 鋤鼻器官と脳との間の伝達経路が不明。フェロモン物質を受容できても脳に伝える手段が存在しない可能性がある


どうです?ヒトのフェロモンによる奇跡の媚薬効果を実証するには、かなりのハードルがありそうですね。

それでもヒトに性フェロモンが現象が観察される

チベットなどに生息するジャコウジカのオスの生殖腺(香嚢)から分泌するムスクは、哺乳類の性フェロモンの一種と考えられます。香水業界ではムスクだけでなく動物性香料(ムスク、アンバーグリス、シベット、カストリュウム)はすべて「セクシーな香料」と考えられていますが、それはヒトにとっての性フェロモンとして直接的な行動を起こさせるとは考えられていません。

が、心を動揺させる香りであるからこそ歴史上に媚薬や薬として名をとどめ、現在でもそれらは香水にごく一般的に配合されています(動物性香料はほぼ合成香料に代用されていますが)。

かの有名な「寄宿舎効果(ドミトリー効果)」の事例が示すようにヒトにも何らかのフェロモン物質が存在し、また何らかのメカニズムでケミカルコミュニケーション(化学物質による情報伝達)が成立していると考えられます。ケミカルコミュニケーションこそ、フェロモンの働きそのものです。

このような事実から研究者の間では、ヒトにもフェロモンは存在する!。しかし、それが何で、どのようなメカニズムで、どれくらい強力に作用しているのかまだよくわからないというのが、2006年現在の現状です。

寄宿舎効果(ドミトリー効果)とは

寄宿舎効果とは女性が同一の建物内などで生活すると月経周期が同期する現象。1971年にマーサ・マクリントック教授によって発表されました。

フェロモン物質候補はこれだ

まじめに研究している研究者から研究所や研究機関、たんに商品を売りたいだけのやる気満々の企業まで様々な情報が発信されフェロモン情報は混乱気味ですが、比較的語られるヒトの性フェロモン候補には次の成分が上げられています。

あくまでも候補でありその実際はどれも証明されていません(ここでいう「証明」とは、複数の利害関係のない第三者によって確認試験で同様の結果が得られた状況をいいます)。

・オスモフェリン

オスモフェリンとは、女性の排卵期に作り出される物質。男性がオスモフェリンを嗅ぐと唾液中テストステロン値が上昇することという結果がでているそうです。

・アンドロステノール

アンドロステノールとは、男性の体内でより多く分泌される物質で女性に興奮作用をもたらすとされています。腋の下や生殖腺に広く存在するアポクリン汗腺から分泌される性ホルモン。

・アンドロステノン

アンドロステノンとは、女性の体内でより多く分泌される物質で男性に興奮作用をもたらすとされています。腋の下や生殖腺に広く存在するアポクリン汗腺から分泌される性ホルモン。

・テストステロン

テストステロンとは、男性ホルモンの一種で筋肉増強や体毛、性欲などに作用します。テストステロンは女性も分泌されますが、男性の方が多く分泌されます。

一般に「フェロモン香水」という商品にはアンドロステノールやアンドロステロンを配合した商品が多いようです。これらは無臭・無色で嗅覚ではなく鼻の中の鋤鼻器官(人によっては機能していない)で感知されているようですが、それがどのように大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)、視床下部(ししょうかぶ)といった人体に生理的な作用を及ぼしたり、直接的な興奮を引き起こすのか未だ解明されていないのが現状です。

なお、鋤鼻器官を視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感についで「6番目の感覚」と呼ぶ人もいます。「弟六感」(弟6感、ザ・シックス・センス)は、通常はテレパシーのような超能力や超心理学の世界の感覚で使用される言葉ですが、どちらもまだその地位を確立できていません。

解剖学的には、テレパシーの信号を受信する脳内の感覚器がまったくわからない現状、まだしもフェロモンの方が有利なようです。ということでここでは、弟6感を「フェロモン覚」、そして弟7感を「テレパシー覚」とランキングさせてもらいます。