香水トレンドを探る取材を行いました。大きなテーマなので本来なら多方面からの検証が必要ですが、リソース不足のため今回は香水ショップと輸入商社という切り口からトレンドを眺めてみたいと思います。
さっそくはじめます。下着メーカーから出発したエストインターナショナルの創業は1988年。日本を代表する香水専門店ディパフィを全国に約20店舗展開しています。ディパフィのコンセプトは「街の住人が香水について相談できる街の香水屋さん」。街ごとにパフューマリーがあるヨーロッパのように地域密着型でカウンセリングを中心としたお店が理想です。パフィはParfum(香水)をもじった造語ですがカワいい響きがスタッフもお気に入りとのこと。
ディパフィの第一号店は熊谷店(埼玉県)からスタートしました(1996年)。熊谷の方には大変失礼な話ですが「え?」と聞き返しました。たいていの企業は、第一号店の場所にこだわります。特に香水のようにイメージ性が強い商品は、大手ブランドさんのように銀座か表参道・・・とまではいかないにしても都心の戦略的なスポットからスタートし周辺地域へと展開していく形態が普通です。
当時エストインターナショナルは熊谷に取引工場があり、大塚社長は足繁く通っていました。携帯電話が珍しい時代ですので駅の公衆電話から工場に迎え依頼の電話を入れますが、とにかく女子高生が多く電話ボックスの前で彼女らに待たされるのが常だったといいます。
ルーズソックス姿で街を闊歩する女子高生は、当時流行の発信源で多くのメーカーが彼女たちの心をつかむ商品開発に心を砕いていた時代です。電話ボックスの前で待たされながら大塚社長は閃きました。この娘たちは香水は好きかしら?
熊谷の駅ビルを見て回り一カ所柱の周囲によいスペースを見つけ、飛び込みでJR東日本に出店交渉を行い売場を確保。なんともパワフルな話です。「駅ナカビジネス」に邁進する現在のJRさんほどでないにしろ、駅ビル出店にはそれ相応の条件と時間が必要と聞きます。飛び込みでしかも香水ビジネスの経験がないお店の出店が許されたことに大塚社長の意気込みと強運が感じられます。
一号店は思惑通り「並べる端から売れていく」お店になりました。購入してくれるのはもちろん女子高生。オープン当時、香水に対する知識も経験もなかったのですが、雑誌などで勉強してくる女子高生には商品説明もそれほど要求されなかったといいます。手探りながらもディパフィの快進撃が始まった瞬間です。
話題をいきなり核心に。現在の香水市場をどう見ますか?
「迷路にはまりこんだような状態です」
ディパフィは順調な業績の拡大もあり、香水専門店としてのノウハウとスキルを蓄積していきました。品揃えも強化し販売員のレベルも急速に充実していったものの「5年くらい前から専門店としてのあり方について悩む」ようになりました。
ここで香水の流通について少し解説します。ご存じのように日本の化粧品メーカーは香水の商品化に必ずしも前向きでありません。その結果、日本で流通している香水はほとんどが欧米の大手ブランド製という完全に輸入製品市場となっています。香水輸入大手「株式会社わかば」(以下わかば)と「ブルーベル・ボーテ株式会社」(以下ブルーベル)の2強を筆頭に無数の香水商社が存在します。
わかば・ブルーベルはともに輸入総代理店契約に基づき一部のブランド製品の正規の輸入ルートの機能を果たしています。しかし、たとえばシャネルやエルメスのようにブランド直営店でしか扱われないブランド商品もたくさんあります。日本で流通する香水ブランドは、ざっとみて500ブランド。直営店やわかば・ブルーベルなどが取り扱う正規輸入ブランドの数をはるかに超えるブランド数です。また正規輸入ブランドでも直営店や正規ルート以外から入る香水も相当数あると思われます。
ブランド直営店や正規輸入代理店以外のルートは「並行輸入」と呼ばれます。香水商社には並行輸入に徹しているところもあります。並行輸入は多くの場合、内外価格差や為替変動をついてブランド品を他国で安価に仕入れ輸入するものです。並行輸入商品に贋物が含まれる事件が発生したこともあり悪いイメージを抱く方がいますが、並行輸入自体は違法ではありません。むしろ同じ商品を安価に提供できるため歓迎する声もあります。一般の方でも海外で香水を買い込み帰国後友達などに売る行為も並行輸入にあたります。参入障壁が低いため並行輸入に参入する業者や個人は現在でも増加の一途です。
香水は、ブランド商品のアイテムの中では量産が可能なアイテムです。アパレルやバッグは同じ物を持つ人が街中で鉢合わせる状況を嫌いますのでその生産量が限られますが、香水はある程度量産が許されます。目先の収益を増やしたい場合、香水の増産に走るブランドさんもあることでしょう。その結果過剰在庫を抱えることになりますが、それらは並行輸入業者にとっては格好の商材として市場に漏れだしてきます。
香水はブランドイメージが完成された商品ですので手にとって買えないネット販売でも力を発揮します。ネットで知らない商品を購入するには勇気が必要ですが、ブランド香水ならどうでしょうか?それほど心配なく購入できるのではなでしょうか。ネット向きの商材です。インターネットが本格的に普及しはじめる1995年前後から香水のネットショップが急増しました。しかも携帯電話からの香水の売れ行きは絶好調です。携帯電話の小さな画面では商品説明が不足し高額商品の販売に向かないとされてきましたが、業界関係者を驚かせる結果となりました。
香水市場は過去10年間、一部のメーカーの過剰な増産、並行輸入業者の新規参入、ネット販売の出現というスパイラルを描きながら商品自体が市場に飽和していきました。ブランドイメージを大切にしてきた香水は、いつのまにかドラッグストアや家電量販店、カー用品店、本屋さん、ディスカウントストアなどでもワゴンで山積み販売となる様相を呈し、ヒット商品がでると多くの人が同じ香水に飛びつくというやや異様な光景も出現するようになりました。
大塚社長が悩んだのはこの時期です。香水需要にはまだ余力があり、販売は伸びていましたが、拡大路線には一歩距離を置き慎重に自分たちのショップのあるべき姿を模索しました。香水には、夢があり、それぞれが歴史とストーリーを持った商品なのに、価格だけをウリにすべてをセルフ方式のワゴンセールで売ってよいのか、という思いが心にのしかかっていました。悩んだ末の結論は「地域密着型で香水について相談できるお店」です。
カウンセリング重視の姿勢を強く打ち出すことにしました。ヒット商品や流行に振り回されない、メーカーやブランドからはできる限り独立し自分たちがよいと信じる商品を薦め、お客様には「自分のための一品」を選んでいただくことを重視する方針へと舵を切りました。
「大人のためのお店」
と大塚社長は表現します。考えてみれば日本では、消費は常に若者によって主導されてきました。メーカーも流通もテレビも購買意欲旺盛な若者がメインターゲットです。成熟した大人が増えてきた日本ですが、日本には大人が入りたいお店が少ない。大人のセンスにマッチするお店への成長が過去3年間のディパフィの歴史ですし現在も試行錯誤が続いています。「店づくり」「品揃え」「接客」というテーマがありますが「中でも群を抜いて、接客が大切」と大塚社長は語ります。さらに、お客様自身や市場トレンドにも明確な変化が現れてきました。
「人気No1はどれですか?」「○○さんが付けている香水ありませんか?」
これは数年前多かった質問です。現在、ディパフィではランキング・芸能人御用達・ヒット商品に関する質問は減りました。代わって「人とかぶらない香り」「癒される香り」などのように個性的なもの、自分自身の満足のためのものを探していると思われる質問が多くなったと言います。売れる香水も多様化し「ランキングがあまり意味をなさない」状況も感じ始めています。
インターネットでは、消費者がどのような検索を行っているか統計が公開されています。それによると「香水」というキーワードとともに入力されるワードのトップは「ランキング」「激安」「ブルガリ」「人気」でした(オーバーチュア、2006年11月)。これらはディパフィで数年前によくあった質問と重なります。この結果が語るものは自分自身の香りを探す前に「人気があるものを最安値で買いたい」という心理ではないでしょうか。
検索エンジンでランキングトップの香水を調べ、価格比較サイトで最安値のショップを見つけ、通販で購入するという消費者行動が伺えます。ネットではこのような層がまだ主流です。反面、大塚社長の話から違ったトレンドを描く消費者が力強く育っててきている現状を実感しました。「地域密着型パフューマリー」としてディパフィのような香水専門店が今後担う役割は大きいと思います。
【データ】
dis PARFY(ディパフィ)
335-0012埼玉県戸田市中町1-2-17
Tel.048-442-8688
株式会社エストインターナショナル
※取材はディパフィ北千住店(ルミネ3F)にて
●店舗統括マネージャーの坂本さんとディパフィ北千住店店長の横山さん●カリスマ販売員としてこの業界で有名な坂本さんには「坂本さんから買いたい」というファンの方がおられますが、現在ディパフィのさまざまな店舗で出現しますので捕まえにくい●ところで、横山さん、今まで受けた面白い質問は?「香りのしない香水ありませんか?」「誰かわかりませんが、すれ違いざまに香った香りありません?」
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