スパイスの効いたカレーは大人の味・・・
カレーのプーさん


(注)「香る生活」WEB版では、取材対象者の個人名は「○○」にて代用されている場合があります。ご了承ください。

昔、香料と香辛料と薬は、ほぼ同じ植物から採れ香味・薬・殺菌・防腐などに使用されていました。時代とともにそれぞれ役割を分化・専門化させます。とくに現代医薬品は純度の高い合成成分に依存しますが、それでも香料・香辛料・薬には近い相関関係があります。製薬会社からスタートした資生堂さんが化粧品会社となったのはよい例です。西洋では伝統的にハーブが使用されてきましたが、中東・アジア交易からもたらされる香辛料は、生肉の保存と調理の添加物として珍重され金銀と同等の価値があり大航海時代を押し進める要因の一つになりました。

当社がある国分寺の隣駅、JR武蔵小金井駅近くには香辛料が抜群に効く「インド風カレー専門店プーさん」があります。香辛料と香料はもともと同じだから、とやや強引な理屈でプーさんに取材をお願いしオーナーであるモトキ通商社長の○○さんにお話をお聞きすることができました。

プーさんの香辛料カレーに、いったん取り付かれると数日おきに通いたくなるようで、中毒症状を呈した地元人も少なくありません。食べ物は個人の嗜好性がありますのですべての人にあてはまるわけではありません。実際クチコミではじめて来店したと思われる大学生風男子2人づれの「ウワサほどではない」という会話が聞こえたことがありますが、それもアリです。

休業日のお店に裏口から入れてもらうとその瞬間に脳内で香辛料の独特の匂いにスイッチが入りました。私には落ち着く香りです。これは正面入り口からでは感じないので、裏口近くに香辛料の倉庫があることがわかります。誰もいない寒いレストランのテーブルに腰を下ろし、じっくりとお話を伺いました。

プーさんの創業は1980年、今年27年目。すでに2代目。もともとバックやアクセサリーを輸入し軽井沢などのショップに卸す事業をされていましたが時代の流れとともに他業者との競争にさらされ、事業転換を計るべく飲食業に進出したのがプーさんのはじまりです。カレーにこだわったわけでありません。しかし、特徴がなければ貿易業と同じ状況に陥ると考えた末に当時日本でまだ珍しかった「カレー専門店」を選択したそうです。

プーさんというネーミングは?

一人暮らしの女性が仕事帰りでも気楽にお店に入れるよう「せめて名前だけでもカワいく」と。予想外の返答に思わず吹き出しそうでしたが、○○さんの淡々と話すスタイルがプーさんのお店のスタイルに通じます。

「オープンから4〜5年はいい味にはなりませんでした。お客の入りも少なく私は当時中学生で、友人に食べに来てもらうと『あれじゃダメだ』とスバリ」

近くには経済大学、学芸大学、ICU、農工大・・・と大学が点在しており小金井・国分寺は学生の街です。大学で上京、プーさんの味を覚え帰郷後、何かの都合で上京の際にプーさんに立ち寄るという人もいます。そんな人から聞いた話では「当時からうまかった」そうですが、○○さん自身はオープン以来試行錯誤の連続と言います。「これでいいという発想はありません」。○○さんが実質的にお店を切り盛りするようになって14年、その間も味は少しづつ変化してるそうです。

「この味がいいというお客様がいる
ので味を大きく変えることはありませんが、それでもいろいろ新しいレシピや味を試しているのは事実です。またそれが好きなんですね」

新作のレシピができても簡単には変えませんが、新しい情報が入ってくる、新しい材料を仕入れる、時代の嗜好も変わる・・・むしろ変わらない方が困難です。フレグランス業界も同じです。たとえば名香といわれる香水には半世紀以上売れているロングセラーも少なくありませんが、中身は微妙に変化しているものが大半です。どの香水メーカーもレシピを変更している事実を公表したがりませんが、時代のテイストに合わせるだけでなく入手困難になる香料が必ずでてきますので変更せざるをえないという事情もあります。

「実はどの層のお客様に味の焦点を合わせるか、常に悩んでいます」

プーさんの顧客の半分は女性。ややマイルドな味を好む傾向があり、一方「カレー一本道」のような熱い顧客層は、概してとことん辛いものや激しいものを好みます。「マイルド」から「激」まで幅広いニーズに合わせるのは困難です。料理学校では勉
強しなかった○○さんの先生は、インドやスリランカに修行に行ったときの現地の生の情報。しかし、あくまで自分自身の研究と模索を基本とします。全国の有名なカレー店には関心がありませんし視察にも行かないと言います。

「毎日、市場で自分の目で食材を選び、毎日仕込みし、毎日厨房に立つこと、それが料理の勉強です」

プーさんの特徴の一つは営業時間の少なさ。週2日の休業日、週2日は夜だけ、残り3日は昼と夜の2部制で営業されています。気が向いたときに行ってもクローズしていることが多く、悔し紛れに「優雅な経営だな」と捨てぜりふの一つも言いたくなるのは人情かもしれません。

プーさんは2006年11月、東京都の道路拡張に伴いほぼ同じ場所に店舗を建て直して新装オープンしました。店舗は以前と比較して広くなりました。昔を知る人は昔の店舗がかなりく狭かったことを覚えています。その狭さと営業時間が関係しています。以前は食材の保管・仕込みと調理が別の場所で行われ、一日に何往復も余儀なくされていました。多く作りたくても物理的な制限があったのです。

営業時間以外は、営業時間と同じかそれ以上の時間が、野菜・果物の皮むき・煮込みといった仕込みに費やされてます。食材の仕入れや管理の
仕事もあります。新店舗では倉庫・厨房にある程度の広さを確保。新店舗になって数ヶ月。「まだ結論を出すのは早いのですが、肉体的にも心理的にも負担がやや軽減されました」と将来的には営業時間の拡張も視野に入れたい、とにっこり話してくれます。

プーさんにはスリランカ人のスタッフがいて○○さん同様、厨房の奥でレストランを支えます。彼のパイプは現地の情報や香辛料の仕入れに役立つそうです。またアルバイトのスタッフは15人。

香辛料の仕入れにはやはりこだわりが?プーさんの仕入れルートは大手流通と独自パイプの2本建て。エスビー食品やギャバンなど大手流通の香辛料の品質は「よい」と言います。しかし、それだけでなく独自パイプを持つことで香辛料のバリエーションと現地とのコネクションを強化してます。自分で産地に赴きすべてを仕入れるのは理想的ですが、必ずしも現実的でありません。

当社も産地から天然香料を直接仕入れることがありますが、安定供給・品質・価格を考えるとメインルートは大手商社経由が安全です。たとえば、自らブルガリアのバラ畑まで行ってローズオイルの出来映えを視察することもありますが、継続的な製品用原料としては、品質と供給が安定しているチャネルから購入します。ブルガリアローズオイルの場合、日
本の大手化粧品会社は、ほぼすべてブルガリア国立バラ研究所経由ですが当社も同じです。

プーさんのカレーは、野菜と果物をしっかり煮込んで作るペイストにクローブなどを中心に約20種類の香辛料を合わせます。香辛料はオイルで炒めて香りを立たせるのが平均的なやり方ですが、プーさんでは油を使用せずに香辛料の香りを引き立たせる工夫をしています。詳しいノウハウは企業秘密です。香辛料は茎・葉・根・皮・種・蕾など乾燥させたもので辛いイメージがありますが、それは数割もないと言われます。民間療法的に様々な効能が知られています。プーさんではカレーは「薬膳的」食べ物と考えられているようです。

「自分が実際に作り、お客さんに食べてもらう。世の中は分担制でそれぞれの人が何らかの担当をしている、自分の場合、それはカレーを作ることであってそれを一生懸命にやるだけ」と○○さんは話してくれました。ごく淡々と話される態度に凄さのようなものも感じます。

「今日お客さんに出せたものが自分のすべてという気持ちでやっています」。今日来てくださるお客さんにおいしいカレーをだして満足して帰っていただく、それは○○さんにとってお客様との「信頼関係」だそうです。

「足繁く通っていただくお客様がい
る、満足してもらう、意見を言っていただく、そういったお客様に育てられているからプーさんは存続できます」

のれん分けを希望する人はいませんか?という問いには「もしモチベーションが続けば」と。あまりの忙しさ、消耗する体力、ビジネスとして考えるならバカバカしいと思いう人が大半だと思います。「好きでないとなかなか・・・」。ニコニコ話される割にはひしひしと伝わるレストラン経営の厳しさ。話の内容は香辛料同様、大人のテイストでした。


●「現地では様々な料理に香辛料を使います。日本食で言えば肉じゃがやスキヤキのように別の料理のはずですが、日本人から見ればインドの料理はすべてカレーに見えます。しかし、現地の人にカレーを作っている感覚はありません」(○○氏)●個人的にお薦め、野菜カレー。20種類くらいのぶつ切り野菜を堪能できます。

【データ】
インド風カレー専門店プーさん
・東京都小金井市前原町3-40-27
・Tel.042-384-7055
・営業時間:11:00〜15:00
      17:30〜21:00(火曜・金曜は夜のみ)
・定休日:月曜、木曜
・最寄駅:JR中央線 武蔵小金井駅 徒歩5分


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