この冊子では過去何度か香料会社を取り上げました。今回は3度目です。今回インタビューにお答えいただく○○氏は株式会社ネオネクリエーションの代表取締役です。
株式会社ネオネクリエーションは従来型の香料会社から脱皮し、香料ビジネスをベースにした新たなビジネスモデルを展開しています。外資の香料会社に25年以上勤務された○○氏に外資系香料会社の内情につて語っていただきます。
○○さんは、70年代後半フランスのディジョン大学に留学した経験があります。帰国後特に香料会社に就職することを希望していたわけではなかったのが、たまたまドイツの香料会社ドラゴコ(現シムライズ)に就職した結果、香料の世界に足を踏み入れてしまいました。
----「フレグランス産業はフランスの地場産業です。電気産業が日本の地場産業であると同様に。今も昔も香料に対するフランスのブランド力は失われていません。フランス人でも電気製品といえばフランス製より日本製を買いたいのと同じで、フレグランスといえば、やはりフランス製です」。
----「主要な世界の香料会社の多くのパーフューマーは、以前は大方フランス人でした。○○さんが入社したドラゴコというドイツの会社でもフレグランス部門で働いているスタッフにフランス人は多く、ファインフレグランスの開発センターはパリにありました。」
----「当時は年2回パリのフレグランスラボのトップパーフューマーが来日していました。その目的は大手化粧品並びにトイレッタリー会社にニュートレンドの香りを紹介することでした。」
----「しかし当時の顧客は調合香料をそのまま使用せず色々な調合香料、天然香料、合成香料を混ぜて最終製品に賦香していました。つまり最終調合香料と紹介したものが日本の市場ではベース香料と使用されていたのです。」
----「明治維新の時代西洋文明を上手く取りいれる様を『換骨奪胎』と言っていましたが、当時は『隠骨上塗』と言う調香手法が大手を振っていました。」
ヨーロッパを旅行すると、それぞれの国同士が地理的にかなり近いことを感じさせられます。東京から福岡か札幌に行く感覚で、パリからフランクフルト、ロンドン、ミラノ・・・などと回れます。狭い土地に多様な国家がひしめくため文化や習慣はたやすく平準化しそうですが、そうならないのがヨーロッパの民族の多様性でしょうか。
ドイツ側からライン川を越えれば、もうそこはすでに文化が異なるフランスですが、香りの文化もヨーロッパ域内でそんなに違いますか?という質問をぶつけました。
----「PFWに所属していた頃、大がかりな世界の香りの嗜好調査をマーケティング会社と実施しました。この調査結果が非常に興味深いものでした。調査結果を香りの嗜好分布チャートとして制作すると、緯度や民族性の違いで明確な地図が出来上がりました。」
ドラゴコの後、○○氏はアメリカ資本のPFW社に移籍します。このPFW社はオランダを発祥の地にしている会社で、主に食品香料を専門にしていました。アメリカ資本に買収された後フレグランスビジネスに力を入れたそうです。フレグランスの開発センターをパリに置き、マーケティングのセントラルユニットはニューヨークで、グローバルビジネスを展開してきました。
PFW時代に○○氏は多くの友人とめぐり会います。「マダム ロシャス」や「カレッシュ」等を調香した著名な調香師のギー・ロベール、そして今では株式会社ネオネクリエーションの取締役として或いはフレグランス・コンタクト社の社長で且つ調香師のアラン・ヴェルジュー。そして多くのマーケティングスタッフとフランス人セールスです。
○○氏は続けます。
----「『分布チャート』でわかったことは、かなり大雑把に言えば同じヨーロッパでも嗜好は大きく二つに分かれます。フランス・イタリア・スペインのラテングループとイギリス・北欧・ドイツ・ベネルックスのアングロサクソン・ゲルマングループに、ラテングループは柑橘系並びにフレッシュフローラルに対する嗜好は非常に高いです。」
----「またアングロサクソン・ゲルマングループは、シプレー並びにフゼアー及びアニマル系に高い嗜好を示します。また同じフリューティーノートでもラテングループは爽やかなフリューティーノートを好みますが、アングロサクソン・ゲルマングループは甘いシツコいフリューティーノートを好みます。日本人の嗜好はフランスやイタリアと重なる所が多々ありました。」
日本人の嗜好がフランスと似ていたことは○○さんにとってその後のビジネスでは重要な指針となったそうです。クリスチャン・ディオールの「オー・ソヴァージュ」は今でもフランスではトップ5の香水にランキングされています。この「オー・ソヴァージュ」は日本人にも好まれています。
後にPFW社の親会社ハーキュリーズがドラゴコの買収に失敗し、イギリスの香料会社「ジマーマンホップス社」を買収しますが、この買収は結果として上手く行きませんでした。この頃から世界の香料業界は大きな岐路に立ちました。
----「ジャック・ウエリッチのNo1理論に毒され始めたのです。『企業はその属する業界でナンバーワンにならないと生き残れない』と言う考えです。しかし、香料業界ではこの様なウエリッチの考えは公理になりませんでした。少なくともフレグランス事業では。結果ビッグ5の香料会社のトップは未だ杞憂を持ち続けています。」
○○氏が属していたPFW社のフレグランス事業部はドイツの製薬メーカーバイエルに買収されます。欧米の香料会社の歴史はそのままM&Aの歴史ですが、現在でもそれは続いています。
傾向としてM&Aを繰り返しながら資本も市場占有率もより大きくより大規模になっています。最終的には世界には数社のメジャーと無数の小さな香料会社に2極化するでしょう。ここで世界の香料会社トップ6を見てみましょう。
1.ジボダン(スイス)
2.IFF(アメリカ)
3.フィルメニッヒ(スイス)
4.クエストインターナショナル(英国/オランダ)
5.シムライズ(ドイツ)
6.高砂香料工業(日本)
※昨年クエストはジボダンに買収されました。
●ネオネクリエーションが取り扱う天然香料の一例●(上)ローズマリーアプソリュート。一般的に自然が相手の天然由来香料は信用のあるルートでないとよい品質の物を安定的に仕入れることが難しい。
●(下)さまざまなローズのエッセンシャル・オイル。左からモロッコ産、ブルガリア産、トルコ産。その他さまざまなローズオイルが揃う。
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