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VOICE 主要道路からも、鉄道からも外れた、小さな集落。 40k程離れた、ここ、南飛騨に比べ、温暖な気候のその地は、名を「温井」(ぬくい)と云う。 狭い道路は通る車も疎ら、時折、静けさを破るのは、石灰採取の発破の音。 時の流れから取り残されたかのような地に、母方の祖母が、一人で暮していた。 道路を挟んで流れる、綺麗な水の流れる谷川、日当たりのいい裏山に、点々と咲くタンポポ。 花の好きな祖母の植えた、素朴な花達の奏でる春は、いつも、穏やかで優しかった。 原種のような、小さな赤いアネモネと、紫色のヒヤシンスに、黄色のスイセン、白いユキヤナギ・・ そして、ぐるりと家を囲む、沈丁花達の強い香り。 肌寒い春の朝に、夕暮れに、あるいは、しとしとと降る雨の中、歩くとギシギシと音がする、すすけた柱の古い家に、いつも満ちていた春の香り。 永遠に続くかと思われた穏やかな春は、ある冬の日、唐突に終わりを告げた。 雪がちらつく寒い日、一人ひっそりと、祖母は還らぬ人になる・・・ 主の居なくなった家、春が巡る度、沈丁花は香り続けた。 数年後、道路の拡張で、家が取り壊されるまで。 跡地には、叔父の家が建ち、拡幅された道路を、ひっきりなしに車が走るそこに、あの、穏やかな春は、もう無い。 忘れた頃に見る夢は、いつも、春爛漫の花の中。 「いい匂いだろう? 沈丁花って云うんだよ?」 沈丁花よ、想いは、風に乗り、時を越えて届くだろうか? ・・・彼岸花 ●私の香水のつけ方: |
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