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( 香水工場の )

香る生活


香りと脳の関係 (2)・・・香りと認知症
認知症患者の方には、香りを認識できないトラブル(=嗅覚異常)をかかえている患者さんが多いそうです。認知症と香りにどんな関係があるのでしょうか?


嗅覚(きゅうかく)という感覚


「きゅうかく」と読みます。嗅覚はヒトの五感の一つです。ヒトの嗅覚は、視覚や聴覚と違って、他の高等動物よりも劣るとされます。

たとえば「イヌの嗅覚はヒトの1億倍」と言われます。これは酢酸をどこまで薄めて認識できるかという実験をした結果のデータだそうですが、ちょっと大きすぎて実感できない数値ですよね。嗅覚の能力差を物語るごく一例でしょう。

嗅覚細胞の数や認識できる香りの種類などいろいろなデータを集めて総合すると一般に「イヌはヒトの数千倍から百万倍程度の香りの認識能力がある」という程度に理解していればよいかと感じています。

イヌはとくに嗅覚に優れていますが、おおむね、ヒトの嗅覚は他の多くの動物に劣ります。これはヒトの嗅覚が未発達というより、高度で論理的な計算ができる大脳皮質を進化させる過程で、嗅覚は「それほど重要性がない」感覚として劣化させた結果ではないかと考えられています。


嗅覚の最重要ミッション


嗅覚の重要なミッションとは何でしょうか? 私はこの2つではないかと考えています:

「この食べ物は摂食可能か?」
「この生き物は仲間か、敵か、生殖活動のパートナーか」

嗅覚とは、生命を守ることに直結する上記判断に関して、直感的衝動を瞬時に発生させるためのセンサー兼指令機関。

鼻腔(びこう・びくう)内の嗅覚細胞から繋がる神経は、直接「大脳辺縁系」という進化の中で古い時代に属する脳に直結しています。視覚・聴覚など他の感覚が「大脳皮質」という高度な脳をいったん経由して「大脳辺縁系」に伝えられることを考えると非常に特別な構造です。

なぜ嗅覚は大脳辺縁系に直結しているのか、現在の最先端の研究でも不明です。


香りを感じる嗅覚と脳の仕組み


鼻腔内の上皮には嗅覚細胞と呼ばれる香りを感じる細胞が配置されています。それらは嗅覚受容体(レセプター)を持っており、香りの分子がこのレセプターにキャッチされることで香りの信号が電気信号として伝達されます。

ヒトのレセプターの種類は350程度で、それぞれのレセプターが捕捉できる香りの分子は物理的な分子構造に依存しています。香り分子は複数のレセプターに捕捉され、その組み合わせで認識される香りは数千から1万種類程度になると考えられています。


なぜ認知症で嗅覚が衰えるのか?


認知症は、短気記憶力の衰えが発現しやすい傾向があります。実際、認知症患者の脳は、大脳辺縁系内のとくに「海馬(かいば)」の萎縮や壊死(えし)が多く観察されます。

海馬は、短気記憶の中枢機能ですが、同時に香りの信号を受け取り処理して感情を起こしたり、もっと高度な判断ができる大脳皮質の「嗅覚野」(きゅうかくや)に情報を伝達する働きがあります。

つまり、海馬の損傷は、香り・ニオイ認識機能に大きな打撃になります。


簡単ニオイテストで認知症の早期発見?


このように認知症と香りの嗅覚能力の間には、相関関係があることが多く、簡単なニオイ(嗅覚)テストで、認知症の早期発見ができる可能性があるとして研究されています。


香りと味覚の関係


香りがわからないと食べ物のおしさがわかりません。味覚は、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の認識をしますが、食品の風味自体は香りとともに行われているようで、鼻(嗅覚)に異常があると、食べ物がおいしく感じられません。

試しに鼻をつまんで食べてみると「味が感じられない」という錯覚さえ覚えます。食事の楽しみは人生の大きな部分ですし、生活自体の楽しさが損なわれます。


逆に香りは脳を再生させられないのか?


認知症患者さんは嗅覚障害を起こされている方が多いので、結果的に食事の楽しみもなくなり、生活の刺激も薄れ、脳を刺激する要素が次々と失われる負のスパイラルに陥る危険性があります。

逆に香りで直接、神経が繋がる海馬を刺激することはできないのか、という疑問が現在多くの脳科学者やアロマテラピー研究者のテーマとなってきています。


(続く・・・)

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※この記事は[(2)香りと認知症]

香りと脳の関係 (8)嗅覚のメカニズム
香りと脳の関係 (7)香りで痩せる
香りと脳の関係 (6)リアルに蘇る記憶
香りと脳の関係 (5)香り成分は脳に届く?
香りと脳の関係 (4)再生可能な嗅神経
香りと脳の関係 (3)香りと脳内血流
香りと脳の関係 (2)香りと認知症
香りと脳の関係 (1)なぜ脳の話
(2015-08-10)
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