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( 香水工場の )

香る生活


ユズ精油工場 (エコロギー四万十社)
日本では精油産業は成立しないと言われます。

循環型ビジネスモデルでその常識をブレイクしようとする起業家さんの話・・(2014/11/09)

蒸留器の前で
(右に見える蒸留器は初期の1号機。焼酎の蒸留器を参考に独自開発)


取材旅行


「フレグランスクリーム柚子」という新製品を開発中です。

ユズは日本国内で栽培されている柑橘植物で、持続的かつ商業的に国内生産されている数少ない精油の一つです。

ユズは人気がある香りですので、ユズ精油をベースとした食品用の調合香料(合成香料)なども多く、天然・調合のどちらの香料も入手しやすいことがメリットです。

食品用の調合香料の多くは化粧品にも応用できます。

そこで、天然のユズ精油が生産されている現場はぜひ見ておきたいと、株式会社エコロギー四万十さんに取材を依頼して高知へ行って参りました。

四万十川はとっても遠いイメージがありましたが、実際に行ってみると東京から案外さくっと行ける感じでした。

羽田から高知空港に入り、レンタカーで2時間。ひたすら海岸沿いの高速道路を愛媛方面に向かうと四万十川に遭遇し、あとは川に沿って走りました。


ヒノキの蒸留作業


エコロギー四万十さんは、四万十川の中流域にありました。

ちょうどヒノキの蒸留作業が進行中でリアルな現場を体感できました。

なんでも米国でヒノキの注目度が高まり生産が追いつかない状態らしいです。

「檜舞台」という言葉があるように、ヒノキは日本では高級材木として憧れの木材です。

日本特有(日本以外は台湾にも生息)の木材で古来寺院や神殿の木材として愛用されてきました。

田辺社長によると「このへんは土佐藩の御用木としてヒノキの植林が盛んだった」とのこと。

現在でもヒノキは地場産業の一つとして周辺の山間部では植林・伐採が行われいますが、木材として加工されるヒノキは全木ではなく、とくに根元に近い部分は使用されず山間地に放置されるケースが多いそうです。

そういう放置材(林地残材)や間伐材が、現在エコロギーさんが精油蒸留のために使用しているメインの原料です。

蒸し上がったヒノキチップ
(蒸留が終わったヒノキチップ。木材として使用されないヒノキの部位からオイルを採り、その後はバイオマス燃料として加工される)


エコロギー四万十の由来


お話を伺った田辺社長は、もともと「国鉄マン」(JRではなく「国鉄」に聞こえました)。

家庭の事情で実家を手伝うためにJRを辞めて地元に戻ることからプロジェクトはスタートします。

1999年(平成11年)、地元有志によって「株式会社エコロギー四万十」は立ち上げられました。

会社設立の目的は、バイオマスエネルギーなど再生可能な循環型エネルギーの開発。

バイオマスとは生物由来のエネルギーでヒノキなど廃材の活用が想定されていました。

エコロギーさんの事務所の壁には、循環型バイオマスエネルギーのフローチャートが掲げられています。

そこにはヒノキの廃材からいかに効率よくタービンを回して電力を生み出すか、発電事業の構想がまとめられていました。

「この会社さんは精油会社さんではなく、エネルギー開発会社さんだ」が第一印象です。

ヒノキオイルは、発電事業というシステム内で発生する副産物であり本来の目標物でないようです。


起業家魂


出資メンバーは、すべて自分の本来のビジネスの合間で活動しており、役員はすべて無給、もしくはごくわずかな手当程度の活動費で会社がごく最近まで運営されてきた。

それを、驚きと同時に日本では厳しいとされる精油生産が、なぜ持続可能なのか、おぼろげに理解できました。

熱い起業家魂に支えられているんですね。

ヒノキオイルは水蒸気蒸留法で採取されますが、この会社ではユズオイルも水蒸気蒸留法で採取されています。

柑橘類の果皮精油は、世界的にはコールドプレスといって低温のまま圧搾して採取する方法が普通です。

コールドプレスの方がコストも採油率も高いためですが、エコロギーさんでは発電時に生成される熱を活用して水蒸気蒸留を行うという前提があるため、水蒸気蒸留を採用する理由がありました。


希少で純度が高いユズオイル


水蒸気蒸留のメリットは精油以外の不純物がほとんど混入しないこと。

それだけ純度が高い精油が生まれます。

そのためエコロギーさんで生産されているユズオイルは、ほぼ日本にだけしかないユズという柑橘類の精油で、かつ水蒸気蒸留で採取された希少なオイルであり、世界的にもオンリーワンの価値があります。

エコロギーさんの工場(田辺社長は「研究所」と呼んでいた)には、多数の蒸留釜が鎮座しています。

蒸留とは物質に熱を加え、成分を分離する技術ですが、おそらく最先端の蒸留技術は石油コンビナートでの応用です。

ウイスキーや焼酎といった蒸留酒も、蒸留技術なしには製造できません。

蒸留技術は、蒸留する対象の物質によって釜の形状も抽出ノウハウもかなり違ってくるため、アナログ的な研究と経験が必要です。

職人的なカンと技も求められる技術。

工場に置かれている様々な蒸留器を見ながら、過去15年間の間にどれだけの試行錯誤があったかを思うとこの会社さんに蓄積された蒸留技術は相当なものとお見受けしました。

まさに「研究所」と呼ばれるにふさわしく、奇抜でオリジナルな蒸留装置が研究と同時にライブ・プロダクション実機として稼働しています。

田辺社長が蓄積してきたノウハウの継承はどうされるのか?と質問すると、会社の気風として、社員全員が自分たちで考え新しいやり方を見つけていくことなので、「今年やっている手法は、来年はまた違う手法に変わっているかも」とのことでした。

起業家スピリットあふれる職場ですね。


循環型のビジネス


現在、エコロギーさんでは、精油ビジネスが、ようやく軌道に乗り始めてビジネスとしての可能性が感じられるところまで来ているとのこと。

しかし、会社全体の目標であるバイオマスエネルギーの事業採算性にはまだ課題が多くチャレンジは続いていくのでは勝手に空想しました。

また、軌道に乗り始めたユズオイルに関しても、採油したあとの残渣(ざんさ、残りかす)の問題があり、一方的に生産拡大は目指さないとのことです。

現在、ユズ残渣は蒸留時に生成されるユズ・フローラルウォーター(芳香蒸留水)とともにコンテナで運ばれブタの飼料として活用されています。

しかし、マスプロダクション(大量生産)に移行した場合、ブタの飼料では追いつけない量の残渣が発生します。

その残渣の有効でカーボンニュートラルな活用法がまだ解決できていないとのことです。

エコロギーさんにおける現在のユズオイル生産量は年間1.5トン。そのうち0.5トンが海外への輸出。

この高価な日本産精油が海外に売られていく事実だけでも、私には驚きでした。

本物のユズオイルが生産されている現場、それを支えている人々に出会えて幸運な取材となりました。


(おまけ)生姜の香水 オードパルファム・ショウガ?


「オードパルファム・ショウガ」・・・こちらの工場(研究室)では、ヒノキ・ユズ以外にも様々な蒸留が行われています。

とくに私にとって感動的だった精油はショウガです。ドライブ途中、畑で多数の人が何かを収穫していたので、なんだろうとのぞくとショウガでした。

場所は、窪川町(現在の四万十町)。このエリアが日本一のショウガ産地だったことは後でわかりました。

蒸留するとその植物とは違った香りの精油が採れることが多いのですが、こちらの精油は、ショウガそのものです。

「オードパルファム・ショウガ」という香水も作れるかもと空想しました。


エコロギー四万十

(2014-11-09)
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