香水の保管方法

( 涼しい場所なら案外長く持つ香水 )
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「香水はいつまで使えるの?」 「どれくらいもつの?」 「香水はどのように保管したらよい?」 「香水を劣化させる原因は?」・・・といったご質問をいただきます。

一般的に、香水はワイン同様、消費期限が明記されていません。それは明記するには幅や不確定要因が多すぎるためです。

自分の鼻と目で確認し、色・匂い・香り・感触に異常がみられなければ、いつまでも使えると考えていただいてよいかと思います。

原始的ですが、このへんもワインの消費期限の考え方と似ています。

このセクションでは香水を長く楽しむために、香水を痛める原因と対策、そして香水の保管方法について記述します。

香水劣化の原因

香水(その中身は香料とエタノール)を劣化させる主な原因をリストアップしました。これらは香水や香料を劣化・変質させます。
  • 加熱(温度変化)
  • 光(直射日光だけでなく蛍光灯も含む)
  • 空気(とくに酸素。酸化の原因)
  • 細菌・カビ・酵母(腐敗の原因)
上記は香水に限らず多くの物質を劣化・変質させる原因になります。

一例として食品が、これらに弱いことは日常的に体験することです。

香水の原料である香料も植物由来のものが多く、食品が痛みやすい環境では香料も痛みやすい環境と考えてよいでしょう。

加熱(温度変化)

温度変化は物質を膨張させたり収縮させる要因です。

これが繰り返される環境では物質の内部が分子レベルで掻き混ぜられ化学反応を促進します。

物質の品質安定は一般に分子が運動しにくい低温状態であることがいいのです。

低温が望めない場合、高温なら高温のままがよいのです。

たとえば、日本の夏の日中気温は30度くらい。空調を付けない場合、お部屋もその温度になります。

お部屋の冷房を入れることで20度くらいに下がり、切れば、また30度くらいに上がります。

そんな環境に保管されている香水や香料はリスクが高い傾向があります。

おすすめは空調を操作しないお部屋で気温変化が穏やかなところで保管いただくことです。

日本では地下室はあまり普及していませんが、あれば、地下室のような気温変化が少ない場所がおすすめ(ワインと同じですね)。

温度変化・温度差がなく、一定の温度が継続することが物質の安定には重要です。

光(直射日光・蛍光灯)

夏場に体験する日焼け、窓際に置いていた本や家電製品の変色・・・太陽光にパワーがあることは日常的に体感します。

実際に物質を変化させる力があります。

太陽光は電磁波の一種でパワーがあるエネルギーです。

特に波長の短い紫外線(もっと波長が短くなると「放射線」と呼ばれる)が、化学的な変化を与えることは日焼けの例からも、経験的に理解できます。

紫外線は人の皮膚だけでなく食品や香料にも変質や劣化をもたらします。

紫外線はこのようにパワーがあるため、逆に細菌などを殺菌浄化する装置に利用されます。

紫外線は蛍光灯の光にも含まれています。

蛍光管の電極間の放電によって生成される紫外線は蛍光管の表面で塗布されている蛍光体で可視光線へと変換され光として蛍光灯から発せられます。

ほぼすべての紫外線は除去され人間には無害な光になりますが、100%完全に変換されているわけでなくごく微量の紫外線が漏れ出ています。

これらの紫外線が食品や香料の劣化を引き起こす原因になる場合があります。

美術館など芸術作品に対する紫外線の影響が危惧される場所では100%に近い「UVカット」を施された蛍光灯やUVフィルターを蛍光灯周囲に別途取り付けているところがあります。

それは除去しきれなかった紫外線に対する対策です。

店頭のショーケース内など、きわめて近距離で蛍光灯の直射照射を受ける商品が、比較的短期間で変色することはよくある事例です。これも紫外線が原因です。

香水も例外ではなく、光(直射日光・蛍光灯)を避けることが重要です。

空気(とくに酸素)

空気の組成は窒素(78%)、酸素(21%)、アルゴン、二酸化炭素、ヘリウムなどで構成されています。

このうち酸素以外の窒素、アルゴン、ヘリウムなどは化学的な変性が起こりにくい安定した物質が多く「不活性ガス」と呼ばれています(窒素を「不活性ガス」とするのは反論も多いですが、一般的に不活性ガスと呼ぶことが多いようです)。

一方、酸素は地球上のあらゆる物質を変質させる魔法の物質で、最も危険な物質と見なされています。

人間は酸素なしには生きていけませんが、それは酸素が体内に取り込まれた食物を効率的に分解しエネルギーを取り出せるためです。

酸素は人にとって諸刃(もろは)の剣です。

アンチエイジング医療では人の老化も体内での、酸素による酸化反応が大きな要因としてクローズアップされています。

「酸化」は物質劣化の大きな要因です。香水も例外ではなく酸素に触れることを避けることが重要です。

細菌・カビ・酵母

これらは腐敗の原因です。

腐敗(もしくは発酵)とは腐敗細菌や真菌(カビ・キノコ)によって有機物(タンパク質を含む有機物)が分解される現象です。

腐敗は食品の劣化の最大の原因ですが、こと香水や香料に関してはあまり心配いりません。

香水は一般に香料をエタノールで溶かしたものです。

エタノールはアルコールの一種で殺菌作用があり、また香料自身さまざまな種類がありますが、よく使用される植物性精油(エッセンシャル・オイル)は一般に強力な殺菌作用があります。

そのため香水に腐敗やカビは発生しにくいとされています。

しかし、一般に細菌・カビ・酵母類は物資を劣化させる作用が大きいため、なるべく避けることが重要です。

よくある香水のトラブル

香水は食品のように腐敗や痛みやすいモノではありませんが、無機質の物質のように強くありません。

悪くなることもあれば揮発してなくなることもあります。香水に関連するトラブルの原因を見ていきます。

香水中身の揮発

香水の輸入業者さんや香水商社さんからよく聞く話です。

輸入香水(インポート)が、日本で荷揚げされ、確認すると中身がかなり減っているモノがチラホラある。

また、海外旅行の際、現地で購入された香水の中には数ヶ月でアルコール類が揮発したり、中身が変色するものもあります。

それは香水の容器密閉度に原因があります。

ビンとフタのネジ合わせ(かんごう)はそれなりに高度な技術が要求され、香水には高い精度のビン(とくにネジやディスペンサーの嵌合部分)が要求されます。

香水は「中身よりも香水瓶の方が高い」という冗談のようなウワサがあります。

高い精度と高いデザイン性・オリジナル性が要求される香水瓶の製造コストの高さを考えると、ウソとは言い難いものがあります。

香水の中身の変色

香水に着色を施すことは今時のトレンドではありません。

しかし、消費者へのアピール力が弱いという理由でブルーやピンクに着色するブランドさんはまだまだあります。

香水のボトルの形状から色彩まで「全て含めて商品」という考え方があるので、香水の色彩も重視されることはもっともなことです。

しかし、中身を本来の色と違うカラーに着色しても本末転倒かもしれません。意見は分かれるところです。

ところで、着色に使用される着色料についてです。香水の着色料ってどんなものでしょう?

着色料には植物の花や皮、実などから採取される植物由来の染料や、貝殻や土などの無機物由来、昆虫などの動物由来の着色料があります。

これら自然界由来なので天然着色料と呼ばれます。

天然着色料は自然界の色素成分が主体ですが、分解スピードが比較的速く色あせや変色が起こりやすいものが多いことが欠点です。

香水の第一成分であるエタノールには様々な成分を溶かす力があるため、分解スピードが比較的速い上記の「天然着色料」が香水着色料として使用されることはあまりありません。

代わって安定性が強固な「合成着色料」が使用されます。

しかし、この合成着色料でもエタノールの力には勝てずに多くの着色料は半年から一年程度で分解されるケースが多いようです。

香水は「色落ち」するものと考えて下さい。

反面、香料は時間の経過とともに黄色や茶色に変化するものが多く、さらにエタノールだけがわずかながら揮発する場合があり、香料濃度の上昇とともに琥珀色に変化していくケースも多々あります。

以上の変化は香水の時間の経過に伴う自然な変化であり、穏やかな変化である限り不良品ではありません。

むしろまったく「色あせない着色料」などあれば、それが安全な成分かどうか逆に不安が残ります。

澱(オリ)・異物の生成

香水には植物由来天然香料が多く使用されます。

これらは香水製造時いったんは溶かされ、溶けきれなかったものはフィルタリングされて除去されますが、溶け切ったと思われているモノでも、時間の変化や気温の変化で半固体や固体状の物質として再生することがあります。

再生されたそれら物質は一般に澱(オリ)呼ばれます。

澱(オリ)は合成香料でも発生しますが、天然香料に多く発生する傾向があります。

それは天然香料には純度の高い香水性香料と比較すると、自然物由来だけに雑多で豊富な微妙成分が含まれており、これらが澱(オリ)の原因になるからと考えられています(とくにタンパク質系の成分がなりやすい)。

澱(オリ)は香水の中で浮遊したり沈殿したりします。

これらは異物として嫌われますが、天然香料のエッセンスをなるべく多く配合しようとすると澱(オリ)は発生しやすく、澱(オリ)を押さえ過ぎるとせっかくの天然成分の「おいしい部分」「パワーのある部分」を過剰に除去してしまうことになります。

香水メーカーとしてはこの辺の力加減は気を遣います。

それぞれのメーカーによって澱(オリ)の許容度はかなり違いがあるようです。

一般のお客様から見れば澱(オリ)は異物であり、不良品ですので、クレームの対象になりかねないため一切の澱(オリ)を許さないメーカーさんもあります。

澱(オリ)を押さえるために強力なフィルタリングをするだけでなく界面活性剤の配合で、澱(オリ)の発生を抑える工夫がされる場合もあります。

澱(オリ)の問題は香水だけでなくワインや黒酢などの食品製造でもついて回る問題です。

ワインや黒酢の製造過程で生成し沈殿した澱(オリ)はポリフェノールなどの抗酸化物質を豊富に含み、現在ではアンチエイジング用の健康食品として見直される傾向があります。

香水の澱(オリ)も完全除去を目指すより少々の澱(オリ)はむしろ香料の元気な成分と解釈される時代が来ることを祈ります。

香水の保管方法

香水の保管方法の実際を見ていきましょう。

簡単にできることから専門的なことまで、小さな工夫で香水を賢く保管しましょう。

香水の保管:簡単な心得

今まで香水を劣化・変質させる原因を見てきました。

原因がわかれば対策は自ずと明らかになります。

まずは香水は使用したら「きっちりフタをして」「直射日光の当たらない」「冷たいところ(冷暗所)」に保管してください。

  • ・フタをする(酸素に触れさせない)
  • ・直射日光に当てない(紫外線対策)
  • ・冷たいところ(冷暗所)で保管(低温・温度一定環境)
簡単なようですが、わずかこれだけで香水に限らず化粧品は長く使えるようになります。蛍光灯の直射光がダイレクトに当たる洗面所の棚などに香水類や化粧品類を並べていますか?

それなら、洗面所を使用しないとき蛍光灯は小まめに消す習慣を付けて頂くと、環境的にも香水にとってもグッドな対策です。

香水保管:やや気合いを入れた心得

要は暗くて一定温度のところならまずは問題ありません。しかし、特別な場所を確保される人もいます。

冷蔵庫

光遮断、低温、温度一定という理想的な場所は「冷蔵庫」。

最近は化粧品専用冷蔵庫を所有する人も多くなってきました。冷蔵庫は香水にとってかなりよい環境空間です。

ただし、食品用冷蔵庫との共用の際は子供さんが香水や化粧品を間違って食べたり飲んだりしないよう充分に注意してください。

香水や化粧品の中には匂い付けにフルーツフレーバーを使用するものもあり、小さいお子さんには食べ物と誤解される場合があります。

香水の容器には食べ物でないことをはっきり明記し、簡単には開封できない袋や容器に入れ、子供さんの手の届かないところに入れたいものです。

さらに理想的な環境は「ワインセラー」。ワインブームとともにワインセラーが近年売れています。

このワインセラー、冷蔵庫のようで冷蔵庫とはかなり違います。冷えすぎず乾燥しすぎていない点やコンプレッサーによる振動が極力抑えられている点です。

香水の保管場所として「ワインセラー」は冷蔵庫よりさらに理想的な環境と言えるでしょう。

窒素ガスなどの不活性ガスの充填

香水の劣化を防ぐには食品の劣化防止と同じ対策が効果的です。

食品会社では食品を包装する際、袋から空気を抜き代わりに窒素ガスなどを充填(窒素ガス置換包装・窒素ガス充填包装)するメーカーさんがあります。

特に油脂の酸化防止に効果的です。

窒素は空気の主成分で人にとって無害・無臭で、しかも不活性なガス(しかも安価なガス)なのでこの方法は食品の酸化防止に効果的です。

さらに酸素がないため虫や微細生物の発生が起こりにくく、好気性菌の発生防止・殺菌に役立ちます(嫌気性菌には無効果)。

ここでは「袋から空気を抜き代わりに窒素ガスを充填」と簡単に説明しましたが、もし精度を上げてやるにはこれは大変です。

窒素を充填しても酸素はある程度残ります。

脱酸素剤

一般的なガス充填包装で数パーセント~10%程度残留する酸素を吸収するために小さな酸素吸収剤(脱酸素剤)を封入しておきます。そうすると食品の保存期間がさらにぐっと延びます。

小さな脱酸素剤は市販のお菓子などには普通に入っていますので(「これは食べられません」と明記された小袋)、馴染みが深いと思います。

しかし、窒素はそう簡単に見つかりません。一般消費者に需要がないためコンシューマー向け窒素ボンベなどは多く製品化されていません(*1)。

(*1)あえていえば、飲みかけワインの劣化防止用としてワイン用窒素ボンベは手頃な価格で入手可能です。海外製が多いようです。

最近では騒音対策・燃費対策として自動車のタイヤの空気入れに窒素ガス封入が一部流行していますが、スタンドにおいてある窒素ボンベは人の背丈くらいの、いかにも扱いが専門的です。

窒素ボンベは配管の溶接や医療用人工呼吸器の空気製造などにも使用されます。

いずれも専門的で一般消費者用製品としては取扱が少なく私たちが気軽に取り扱うことは現実的ではありません。

しかし、プロフェッショナルな保管対策として窒素ガスなどを充満した密閉容器内に香水を保管すればさらによい結果となるでしょう。ワイン用窒素ボンベももちろん使用可能です。

窒素ガスを利用

実際香料会社などでは香料の品質維持に窒素ガスが利用されることは珍しくありません。

当社でも香料瓶や薬品容器を開けて、再度しめる際は窒素ボンベから窒素充填を行って閉栓することを取扱の習慣としています。

なお、窒素ガスはボンベに入れられ街のガス屋さんで販売されています。

ボンベ500リットル~1.5Kリットル程度で1~数万円。中身の窒素は繰り返し充填可能で、一回当たり数千円程度が相場です。

香水の賞味期限

これは難しい問題です。香水は法的には化粧品に分類されます。

薬機法では化粧品は未開封で3年以上の賞味期限があることが条件と定められています。

そのため香水も未開封で「3年」は製品品質維持の一つの指標となっています。

しかし、購入後開封しない方はおられないと思います。使用中はどれくらい持つかという疑問が多くのお客様から寄せられます。

表示困難な化粧品の消費期限

香水に限らず化粧品は使い方や保管場所・保管の仕方によって寿命が変化しますし、また各製品に配合されている成分も多種多様なので一概に「何月何日まで使用可能」という表示が困難とされています。

私の知る限り未開封で3年、開封後はなるべく1年くらいで使い切って下さい、とアドバイスしているショップさんやメーカー・会社さんが多いようです。

しかし、一般的に香水は腐るものではありませんし、カビも生えにくく安定しています。

スキンケアなど他の化粧品と比較すると劣化が少なく長く使えるモノが多いものです。

目と鼻で確かめる香水の品質

極端な変色や腐敗、カビの発生など常識的におかしい状況が発生すれば無論使用できませんが、時間が経過しても自分の目と鼻で状態を確認し、使えると判断できるモノは使えます。

当社のお客様の中にはある有名ブランドの製品ですが「30年ぶりに使ってみたら使えました」というご意見をいただいたことがあります。

30年は例外的だとしても5年や10年程度使えるという意見が多く寄せられています。

5年や10年と経過しますと、多くの場合、香水の中身の劣化よりもキャップやノズル、スプレー周りの樹脂や金属など容器そのものの劣化・腐食の方が進んで「物理的に」使えなくなる例は少なくありません。

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