今から20年以上も前のこと。親元はなれひとり、大学生活を
今から20年以上も前のこと。親元はなれひとり、大学生活を送るため地方の都市へ。私と沈丁花の思い出はその頃に遡ります。見知らぬ土地を散策しながら、新生活を快適に過ごせるようにと、母が私とともに家具やら電気製品を買い揃えてくれました。ひととおり整った部屋を見回して「じゃ、これからがんばって」と言い残し、買い物の途中、路地で匂いを漂わせていた沈丁花を、ぽんとヨーグルトの空き瓶に挿して帰って行きました。
ぽつんと部屋に私一人。
初めての一人暮らし。まだ、知り合いも友人もどこにもいません。それこそ、携帯電話もない時代で、電話もまだ工事されていないので声を聞くには公衆電話まで走っていかなければなりません。先ほどまでの希望にみちあふれた気持ちはどこへやら、急におしよせてきた心細さ、不安。夕暮れどきだったこともあり、さみしさではからずも涙がこぼれてきてしまい、暗くなりかけた部屋の中でさめざめと涙したことが、沈丁花の花の香りとともに毎年思い出されます。沈丁花の甘い香りが「ひとりじゃないよ」って慰めてくれていたようでした・・・。その後大学時代に学んだ知識をいかし、社会に出て充実し仕事をしていますが、毎年、沈丁花の香りをかぐたびに、一人暮らしをはじめた時の原点に記憶が遡り、「自分の向いているベクトルはあのころの、フレッシュな頃の自分と同じかな」って、初心に帰らせてくれる香りでもあります。
...by ちほ
笑えるお母さんです。買い物の荷物で重かったろうに、少しばかり折ってこられたんですね。ハキハキした感じが笑えます。一人暮らしの初日は忙しいですが、夜になると寂しいし、さらに翌朝新居で目を覚ますと「ここはどこ?」なんて事態をしばらく理解できなくてつらいものがあります。甘切ない話ですね。